邪気眼伝説Ryu-太郎

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4月……桜の花が舞い散る中、学生服を着た高校生が道を歩いている。
おそらくこれから同じ高校に通う仲間たちだろう。
中には楽しそうに話しながら歩いてるのもいれば一人で不安そうな表情で歩いているのもいる。
そんな風景を見ながら、俺は思う…………そう、

(( く だ ら な い な に も か も く だ ら な い))

まるでぬるま湯に使ってるかのような歯がゆさっ……!!今すぐあの笑顔をぶちぬきたい。あの不安そうな表情に膝蹴りをいれたい。
世界はこんなにも腐ってるというのに……っ!!

そんなことも知らずになんとなく生きてるこいつらが許せないっ……!!

俺は心に決めた。

この邪気眼で世界を救おうと。
暗黒寺龍太郎は心に決めた

~~30分前~~
龍太郎は電車の中にいた。
電車の中には今から出勤するOL、サラリーマン、学生などの様々な人種が乗っている。
その中龍太郎は焦っていた。
趣味の人間観察も忘れ、じっ……と窓の外を凝視している。
(くっ……もう追っ手がきているっ……!!……どうする。どうすればいいっ……!?)
追っ手--恐らくそれは龍太郎の眼のことを知っているものが放ったものだろう。龍太郎もそれは知っていた。
追っ手は電車とほぼ同じ速度で疾走し、時にはビルの上へ跳ねたり、電線の上を走ったりしている。
(身体能力は……俺以上か。だが俺にはこの眼がある。やつはまだ手を出してはこれないはず。)
その様なことを考えていると龍太郎はあることに気づく。
--なぜ……なぜ誰もあの忍者に気づかないのか--
そう、電車と同じ速度で走る人間が目の前にいたら普通は少しくらい反応するはずなのだ。
(くそっ……!!やつら、既に透ける身体(クリスタルボディ)を編み出してやがったのかっ……!!俺も邪気眼がなきゃ気づかないところだった……。)
結局、追っ手は手を出して来ず、龍太郎は無事電車を降りることができた。
そして、周囲の様子を警戒しつつ、ときには地面に這い蹲ったりもしながら、高校の前にたどり着き、あまりのぬるさに絶望したのだった。
邪気眼伝説Ryu-太郎 序章~駿馬は忍びの夢を見るか~
            完

結局、一度は帰ろうかと思ったもののさすがに入学式をサボるような浮いた真似をしては敵に眼をつけられると思い。龍太郎は入学式に参加した。
(くそっ……!!こんな大勢に俺の後ろをとられてると思うと吐き気がするっ……!!いつ攻撃されてもいいように、警戒を怠ってはいけないな。)
「~であるからして、我が草原ヶ丘高校に入学したことを誇りに持ってほしい。」
(誇り……か。そんなものとうの昔に捨てた。)
龍太郎は小さいときのことを思い出す。

「や~い龍太郎のチビ~」
小学1年生にしてはやや大きめの体格の子供が龍太郎を小馬鹿にしている。
「けっ……健太君、やめてよぉっ……!!」
健太……それは恐らく龍太郎のことを小馬鹿にしている子供だろう。
その後も健太はやめることなく、龍太郎を馬鹿にし続けた。
龍太郎はやめてと何度も繰り返した。しかし、健太の口は塞がることはなかった。
次の日も、馬鹿にされた。次は2人になっている。昨日の1対1でも苦しかったのにその2倍だ。……龍太郎は泣いた。でも二人はやめなかった。
次の日、龍太郎に優しく声をかけてくれる子がいた。
「龍太郎君、あんなやつら気にしちゃだめだよ。僕は君の味方だから、安心して。」
龍太郎は、コクリと頷いた。また涙がでそうになったが耐えた。その涙で友達が離れていくのが怖かったから。

そしてその後、いじめられた。今日はまた1人増えて、3人になっている。
そこで、見るに見かねたさっきの子が助けに来てくれた。
「やめなよ、いじめはかっこわるいよ!!」
とても男らしかった。龍太郎と同じくらいの背格好なのに、なにかちがった。
結局、その子は健太たちに殴られ、泣いた。その日、結局龍太郎はいじめられて泣いた。
だが、心は温かかった。明日からは一人じゃない。そう思えたからだ。龍太郎は淡い期待を胸に抱きながら寝た。
次の日、いじめられた。あの子は助けてくれなかった。本を読んで見てみぬ振りをしている。
龍太郎は、6歳にして絶望した。

「次、D組! 暗黒寺龍太郎!」
校長の呼名の声で龍太郎は思いでの海から連れ出される。
しかし、返事をする気にならなかった。
(く だ ら な い な に も か も)
龍太郎は立ち上がり、体育館を後にした。呼び止める声も聞こえたし、身体を引っ張られもしたが。無理やり出てきた。
(あの子の名前は……確か良太だったかな)

邪気眼伝説Ryu-太郎 第二章~天から地への堕天~

龍太郎は某ファストフード店に入った。あまり人ごみの多いところには入りたくなかったのだが、いつ刺客が来るかもわからない今、腹は常に満たされているべきであると思ったからだ。
(早速目立ってしまったか……。自分の心に振り回されるとは俺もまだ未熟だな……。)
龍太郎は肩まで伸びた後ろ髪を触りつつ考える。
(良太……あいつを恨むのは筋違いだ。しかし、俺が今まで生きてきて家族以外助けてくれたのは唯一あいつだけ、それをやつらに利用されるかもしれない。)
結果的に見れば龍太郎は彼に見捨てられた。いじめられてるとき、彼と一瞬目が合ったが、その刹那……!!神速……目にも留まらぬ速さで逸らされた。
彼もまた彼の眼もっていたのかもしれない。龍太郎のように。
(発動っ……!!忘れられた身体『ハイドミー』!!)
龍太郎の邪気眼の力のうちの一つ、忘れられた体『ハイドミー』……このスキルを発動すると他人に気づかれずに移動することができる。
これにより龍太郎はレジの列を抜かして先頭の1つ後ろの場所をとることに成功する。
(本来ならこのようなことはしたくないが今はいつ敵がくるかわからない。悪く思うな……さて、いきなり現れたら能力に気づかれる。……当て嵌まる存在『フィットボディ』!!)
これも龍太郎のスキルの1つ、当て嵌まる身体『フィットボディ』簡単に言えば記憶の改竄を行うことだ。しかしその能力には制限がある。30秒以内の記憶の改竄しかできないことと、邪気に当てられるとつかえなくなってしまうことだ。
なので恐らく敵には仕えないだろうと龍太郎は踏んでいる。
「っっっくぅ……」
龍太郎の頭に軽い頭痛が走る。……この感覚は
「この感覚はまさか…………いや、能力の反動か。」

ボソボソとしゃべる龍太郎を怪しんでか後ろにいる中年の女性がこっちを見ている。
「ちょっと、大丈夫ですか?」
女性はこちらを気遣ってか手を伸ばしてくる。
「っ--触るなっ……!!」
龍太郎はその手を払い逃げるように店を出る。そして一息ついた後、不思議に思う。
(なんだ、なぜこんなにも過剰に反応してしまうんだ……)
龍太郎は気づいていないがそれは恐らくトラウマのせいだ。幼いころの出来事が龍太郎をあのような行動に導いた。
その龍太郎の様はまるで幼きころの良太に助けられた記憶振り回されているかのようだった……。

「あの、大丈夫ですか?」
また心配の声が飛ぶ、しかし今度は男の声だ……。
顔を上げてその顔を見ると龍太郎は珍しく表情を大きく変える。
「良太っ……!!」
なぜその名前が出るのだろう。と言った後に思った。
恐らく面影があったのだろう……。
忘れたくても忘れられない面影が

邪気眼伝説Ryu-太郎 第三章~太古の苦渋~

ズズズ……とコーヒーを啜る。龍太郎はブラックのコーヒーが密かな好物である。甘いのは口の中がニチャついて気持ち悪くなるのでできるだけ飲まないようにしている。
ただ、無糖にしろ加糖にしろ口臭がひどくなるのが問題だ。などと考えながら歩道のほうを見てると良太に話しかけられる。
「竜太郎君……なんだよね。…………龍……太郎君なんだよ……ね。」
良太は何か気弱な風にこちらをチラチラ見ながら喋りかけてきた。
「そうだ」

--龍太郎は良太と再会し近くの某ス○バに入った。良太はまさか相手が龍太郎だとは顔を見るまでは分からなかったのだろう。--

「変わらないね……。いや、変わってるは変わってるよ?身長も伸びたし顔つきも大人っぽくなってるし。」
少し緊張が解けてきたのだろうか。饒舌になってきた。
「小学校を卒業して以来だね。こうして会うのは……ねえ龍太郎--。」
龍太郎は思いで話をする良太の言葉を遮る様に喋りだした。
「何が目的だ?」
「え?いや……目的?えっ?」
良太はまるでカラスのフンが目の前に落ちてきたときのように間の抜けた顔をしている。
龍太郎はその様子を見て少し気を抜くが、続いて畳み掛けるように話す。」
「俺に接触してきたってことはなんらかの意図があったんじゃないのか?道端で偶然で会うなんてあまりにも考えられない。」
良太は驚いた顔をしたがすぐにその顔は崩れていく。

「龍太郎君…………まぁ、あたり前だよね。僕はその言葉に対して何を言っても信用してはもらえないだろうね。……ひどいことをしたんだから。」
それは違うっ……!!と龍太郎は心の中で叫ぶ。救われなかった混沌の小学校生活、そのなかで只の一瞬、一瞬と言えども確かに光った希望の光である。
広い宇宙数ある一つの星並みの小さな光であるが……自分は救われたのだと。
確かに持ち上げられての絶望は大きかった。尋常ではなかったんだが、あの一言でなにかが変わったのだ。小さな一年生の小さな変化……。
龍太郎はあのときこの変化に名前をつけた。

一筋の雷光『ピース』と

この能力に邪気眼はいらない。ただ、困っている人に手を差し伸べるだけだ。それだけ、本当にそれだけのスキル……さっきの中年の女性でも十分に使えていたスキルだ。
その当たり前のスキルに気づかせてくれたのが今目の前にいる人物『良太』

「違う……良太、お前は俺に手を差し伸べてくれたっ……!!そうだろ!?それともあのときの手は嘘だったとでも言うのか!?」
龍太郎は涙を流しながら叫ぶ。もう回りもめなんてどうでもよかった。
「そ、そんなわけない!!僕は……助けたかったよ……龍太郎君を。」
最初はまっすぐに龍太郎の眼を見て言ったものの良太はすぐにめをふせてしまう。
「でもさ、現実は残酷だったよ。健太には一発でやられてね……。知ってる?龍太郎君、僕もあいつらに虐められてたの。」
最後の言葉に龍太郎は眼を見開いて驚く。
しかし、考えてみれば当たり前だ。昔から変わらない原則。

集団の均衡と安定のために弱気物を作り嬲る。

そしてそれを助けようとして和を乱すものは村八分。

当たり前だったのだ。恐らく良太は小さかったからこんなことは知らなかったはずだ。
……しかし心のどこかでわかっていただろう。それが動物の本能なのだから。

「良太……ごめん。本当にごめん。」

「なんで、龍太郎君が謝るのさ。僕が勝手に助けたんだ。自業自得だよ。」

「ちがう!!俺が、自分で……自分の力で健太を止めていればお前は助かったはずだ!!俺がお前が虐められてることに気づいていれば支えれていたはずだ!!」
龍太郎は大粒の涙をボロボロ流しながら叫んだ。昔の自分を叱るように、今の自分に言い聞かせるように。

そう、自分は甘えていた。助けられることが当たり前だと。虐めの件だって親と教師が助けてくれた。……しかし良太はどうだっただろう。
虐められ続けたのだろう。だから中学は別のところを受けたんだと今更になって気づく。
甘い。ぬるま湯につかっていたのは自分だ。一度虐められたからといってくだらない妄想に逃げていた。
恐らくさっき列を抜かしたのだって皆気づいていた。

……しかし、誰かそのことを注意したか?



誰も注意しなかった。自分はそれをあたかも気づかれていないと言う風に思い込んだ。
周りに甘えた。
今まで自分は甘えて、甘えて育ってきた。精神的に自立した気になるために自分は不思議な力を持っていて組織に追われているといことにした。
そうすれば自分は自分のことを特別な大人だと思える気がした。

今、龍太郎の時は動き出した。小学校1年生でとまっていた時が動き出したのだ。
「…………良太……。」
龍太郎は良太をまっすぐ見据える。さっきとは顔つきがまるで違う。
邪気眼最終奥義--覚醒せし獣『ノーティスタイム』--

「何?龍太郎君……」

「気づいたよ。……俺、甘えてたんだな。」
良太はその言葉を受け、龍太郎と同じように相手を見据える。おそらく良太も使ったのだろう--覚醒せし獣--『ノーティスタイム』--を
「龍太郎君……。聞いてほしい」


『友達から始めよう』
今、二人の友達としての時が動き出した。


この二人が親友になるのはまた、別のお話……

邪気眼伝説Ryu-太郎 最終章~歩道で気づく、咲いた花~

邪気眼伝説Ryu-太郎  終わり

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